(有)吉田建築研究所 吉田裕一 3月11日東北地方に未曾有の被害をもたらしたマグチュード9の大地震のことはあまりにも言い尽くされているので、今回はその詳細について語ろうとは思わない。 ・・・・・・ちなみに仙台市では4月7日の余震のほうが大きかったと言う人も多い。
今、世間は地震そのものより、津波、そしていまだに続く原発事故に、より目が行っているように思える。 被災地においては岩手、宮城、福島、それぞれ各県ごとに震災の受け止め方が微妙に違うことも事実だ。
そして復興、これから夢のような?青写真が、国、県、市町村のみならず、あらゆる単位を持つ集団、影響力を持つ企業、個人などからたくさん出てくるのだろう。 ところが、被災現場に行くと、現地には復興のフの字も感じられない、おびただしい瓦礫の山はその圧倒的な力で、人間に己の無力さを痛感させるばかりだ。
建築の世界はどうこの震災を受け止めたらいいのだろう。 多くの建築家は新しい街づくりの機会ととらえ、復興ビジョンの提言に躍起となっている。 ・・・・・しかし、実際は行政との関係無しにこのビジョンは成り立たない・・・・・ 海外をはじめアンテナを広く張ることは悪いことではない、しかその一方、言い尽くされかのように地元住民の意向を反映しなければいけない、とも言う。(なんか変だ) さらに、仮設住宅には阪神淡路の時の苦い経験を生かさなければとも言われている。しかしながら、早期に出来上がったプレハブの仮設にはそのような意向は生かされてはいない。 また自治体によっては仮設の入居者の辞退が相次いでいる。そもそも、建設と解体含めて\600万もかかるものを仮設として造ることに問題があり、家賃保証さえすれば賃貸住宅への入居を望む人が多いだろうとは十分に予測できたはずだ。
高台移転による職住分離、高盛土留の道路網、ソーラー、バイオマスなどの自然エネルギーの活用、高層避難建物の建設、集団移転、漁港の集約化、大規模農業への転換、農地を使わない農業、等々、誰が考えても同じ復興プランが頻出している。 それは復興ビジョンの根本が、津波から如何に逃げるか、災害に強い街づくりとはが焦点になっているからなのだろう。さらに付け足せば、原発事故はエネルギー転換の絶好の機会になってしまっているからでもある。 そもそも津波被害による復興住宅の建設と、屋根にソーラーパネルを全戸に設置することには何の脈絡もないはずなのだが・・・
●閑話休題
今被災地最前線で必要なものはなにかと言うと、それは地震と津波による被害の修繕方法なのではないだろうか。 建築制限地域に入っていようとなかろうと、壊してしまえばただのごみだが、修繕してこそ我が家(生活)であるからだ。 義援金や、支援金、地震保険などの目安が付き始めたことにより、(家を失っても財力がある層が中心ではあるが)なんとか修繕して住もうと言う人たちが、いっせいに動き始めたことも関係があるようだ。
地震被害の建て起こしについては、新潟中越地震後にはかなりの修復工事がおこなわれたことにもより、(少ないが)マニュアル本はあるようだ。 ここでは、住まいの空間研究所を主催する 長谷川順一さんが書いた「地震被災建物 修復の道しるべ」と言う本を紹介します。 内容については多岐にわたるので記述しないが、やり方次第では元の生活を取り戻すことが出来る希望に満ちた書籍だと思う。
地震被災建物 修復の道しるべ 住まい空間研究所 長谷川 順一
津波被害についてはどうしたらよいのだろうと悩んでいたら、ある人から、簡潔にまとめた資料をいただいた。 私だけが知っていてもしょうがないので、そのまま転記してみたいと思います。 ただ、もともとの資料の出所は分かりませんので、その辺を踏まえた形で見てもらうと良いです。
●津波により床上浸水した住宅の補修方法
1)床板は撤去し根太のみにし、床下の泥を徹底的に取り除き乾燥、消毒する。(消毒薬は自治体提供の消石灰、逆性石鹸の塗布噴霧)
2)床板撤去の際、再利用できるものは再利用するように撤去する。無垢材のフローリング材、無垢材の床下地板(杉板など)、合板は濡れた時間にもよるが接着強度が落ちることがある。再利用はそのことを踏まえて判断するべき。
3)瓦礫などで壊れ方の激しい住宅の1階床については、土間床にしてしまう復旧も考えられます。基礎コンクリートの天端まで、土間コンクリートを打つ(砕石などで埋めた上)その際設備の配管、経路スペースを確保のこと。
4)水没した内壁は石膏ボードの下地材、断熱材ともすべて撤去し間柱のみにして、洗浄、乾燥、消毒をすること。その際電気の配線、器具などに注意して壊したり塗らしたり出きるだけしないようにする。器具のうち、はずせるものははずし、濡れないようにする。
5)無垢材の柱材などの木材は洗浄、乾燥、消毒する。長押の後ろなど、見えない部分に溜まったゴミも丁寧に取る。建具は無垢の木材部分は(障子、襖など)再利用できる。合板製建具は状況判断しなければならない。金属製建具は壊れていなければ洗浄、乾燥の上継続使用可能。
6)壊れ方の激しい1階については、基礎、2階床梁、柱の内のり寸法に合わせたH鋼(100角)と丸鋼(Ф25)により四角のフレームとブレースを組み、木製柱・梁に対してはラグスクリュー、コンクリート基礎に対してはケミカルアンカーにて固定する、これを何ケ所かにバランスよく入れる。
7)ユニットバスは泥で汚れていても壊れていなければ再利用できる。その際壁パネル裏側、床パン下部の清掃、乾燥、消毒を行うこと。内部間仕切壁側は石膏ボードなど剥がして清掃する。外壁側は外壁を一旦はずすか、天井裏、横側、などから丁寧に清掃する。プラスチック部分は泥でこすらない。
8)水と泥につかった給排水衛生設備について、陶器・プラスチック・金属の部分は丁寧に清掃、乾燥、消毒すれば再利用できる。しかし電気部分がある場合、その部分は使用できないことが多い。後付タイプのウォシュレットであればその部分のみの交換。
9)台所流し(システムキッチン)、洗面化粧台などの設備は床に固定されているが、その裏側にも泥が入り込んでいる。造りつけの食器棚なども一旦はずして裏側、その部分の内壁、断熱材も撤去し、清掃、乾燥、消毒後、復旧していくこと。
以上具体的に説明している点は評価できます。 ・・・・・いい加減な施工をしている業者には十分な資料にはなるでしょう。 ただ、ある意味分かりきったことではあり、本当に欲しい情報が欠けてはいます。 たとえば床下清掃などです。 この作業は吸引・除菌・消毒・消臭を業務としている、千代田ビル管理や (株)JET(http://www.kkjet.co.jp/seisou/yuka.htm)に頼むことも出来るようです。 実際石巻にある千代田ビル管理(http://www.lococom.jp/tt/20430272369/)では浸水した住宅を対象にその業務を行っているとのことです。 そのほか、浸水した合板などの寿命はどれぐらいかなど、なかなか判断できないのが実態です。
地盤の被害についても少し述べたいところですが、現実的に傾いた家の補修工事を模索していることもあり、次回以降には紹介できると思います。
もうひとつ付け加えれば津波で全壊扱いになった住宅の復興プロジェクトも進んでいます。 こちらも詳細が決まり次第、紹介したいと思っています。
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