(有)吉田建築研究所 吉田裕一 2015年4月から、省エネ法改正に伴って長期優良住宅及び性能表示の評価方法が改正された。理由の多くは省エネ法の改正に伴った措置と思われる。 思うに、政府が(すでに世界各国が達成不可能としてあきらめた)京都議定書に基図いて省エネ法を進める理由は、それによって生まれる外郭団体保護によるものと思われるが、年々目減りしている住宅着工戸数に歯止めをかけるための政策であると言うことは言うまでもない。前述の長期優良住宅もその流れであり、税制の優遇などを目玉にして、60年のメンテナンスプログラムなど机上の論理をいまだに振りかざしているのは滑稽としか思えない。 性能表示に至っては、鳴物入りで導入されたにもかかわらず、今一歩普及しなかったのは審査項目の多さがネックだったからだと思うが、今回の改正で項目は絞られ、長期優良住宅の申請とほぼ変わらない状態になった。それにより多くの大手住宅メーカーがこぞって長期と性能表示を標準化する方向になった。 ご存知のように設計住宅性能表示は建設評価(現場)があって初めて意味があることから、くだんの大手住宅メーカーの何社かは建設評価も標準にするようである(逆に言うと、建設評価を伴わない設計性能表示はほとんど価値がない)。 性能評価住宅や長期優良住宅の骨子は維持管理とメンテナンスそして、温熱等級と耐震等級がメインであり、そのすべてを達成出来る(差別化をもくろむ)大手住宅メーカーの言いなりに出来ていると言っても過言でない、また、審査を担当するのが、それらの住宅メーカー出資のもとに作られた民間審査機関であると言うのも考えたらおかしい話だ。 建築基準法の改正と設備機器の進歩とともに住宅の耐震や断熱性能はここ数年飛躍的に進歩している、現在どんなローコストメーカーや、(言葉は悪いが)田舎の大工が創る普通の住宅ですらも、そのどちらも十分な基準を満たしている。 性能表示にしても長期優良にしても、基本の仕様の確認が目的であり、お墨付きを得るためにカタログのコピーや計算、図面への書き込みをするだけのことであり、実際出来上がる建物は審査合格の建物と審査を受けなかった建物との違いはほぼないに等しい。 性能表示、長期優良住宅における、耐震等級は少なくとも2以上(理想を言えば3)が必要であると思われるが、先の東北大震災においてこの新耐震法がどれほど評価されたのだろうかは甚だ疑問だ。 平成になってから改正された木造在来工法の耐震金物の基準はかなり効果がある(大袈裟である)と思うし、枠組壁工法に至っては、普通に造っても、もともと数倍の耐震性能を有していることから、さらなるお墨付きが必要とは思えない。 また、省エネ法の最大変更点である外皮計算については、その計算方法を変えた理由のひとつが、既存の次世代省エネ法のQ値計算のばらつきをなくすためであり、それによって何かが変わったわけではないと言うことも付け加えておきたい。 つまり簡単に言うと、省エネ法に関しては面倒な計算は不要で、仕様規定で十分と言えるのだ。 もし本当に環境にこだわるのなら、断熱材の種類や施工方法に言及すべきで、石油精製品でないとか、地球にやさしくリサイクルしやすい、とかをもっと評価すべきである。 一次エネルギー計算に至っては、この法が施工される現在、照明の多くは(白熱灯をやめ)LEDであり、ガス給湯器もエコジョーズへの移行(最近延期されたらしいが)が決まっている状況を忘れてはならない。政府は法の整備によってエコに拍車がかかったと思っているのかもしれないが、エコロジー、エコノミーは最大の発展産業であることから、黙っていてもどんどん進歩していくはずであり、何も政府が介入する必要はないと思う。 そして温熱環境、これは地域差があり、それをひとくくりの基準でまとめることは無理があると思う、何気に日本列島は東西そして東北に長いのだ。 結論を言うと、本来のCO2削減のターゲットは新築住宅ではなく、断熱あるいは省エネの基準を満たしていない既存住宅にあると言っていいと思う。 この既存住宅への断熱改修を目的とする優遇制度の充実こそが最も大事と考えられる。系統は異なるが住宅に関しては消費者保護の目的から導入された瑕疵担保険と言う制度もあり、こちらは現場審査と補償に重点を置いているためか、より価値が見いだせる制度で、単に住宅の価値を言うなら、むしろこちらの制度のほうが重要であると思う。
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