デザイン設計実績 -PROJECT- Back

外観内観平面図・立面図|建物への想い|JIA用パネルスタディ模型その後

アルチザン、またはテクノクラートとして

仙台市民の憩いの場所「青葉の森」のやや奥に位置する建設地は、西に森をいただき、南東のはるか遠くに海を望むことが出来る、一種、穴場的と言ってもいい要素を持つ極めて環境に恵まれた住宅地である。特に新緑の5月は若芽の色がういういしく、晴れ晴れとした気分になる。

狭角22.5度という、正16角形の2分割と4分割を基本のモチーフとした平面構成を持つこの住宅は、自らが「織(おり)」の作者であるクライアント夫人のギャラリーも兼ねたパノラマ状に広がるリビングを中心に、回遊性を重視した計画となっている。リビングはホームギャラリーとして一般に公開することも念頭にいれているが、あくまでも住み手を重視した設計を主眼としている。

オープンプランでありながら、全ての部屋は各々が有機的につながり、遊びと機能がバランス良く混在していて、住宅展示場で見られるハウスメーカーの住宅ように、造作家具等をメインとするインテリアに頼らなくても、ダイナミックでありながら快適な空間を十分に享受する事が出来る構成になっている。

出来るだけ自然素材を使う事はこの住宅でも踏襲されていて、徹底して、脱クロス、脱化学製品にこだわっている。また今回は特に自然塗料にも注目してみた。なんとなく居るだけ気持ちが良くなるのはこの影響かもしれない。

銀色に輝く半円形の屋根で構成された外観は、建設中はまるでUFO研究所のように見えたが、グレーに着色したレッドシダー(米杉)と、純白の塗り壁、黒のガルバリウム鋼鈑のスパンドレルと、外壁にそれぞれテクスチャーの異なる素材を調和よく使った事により、完成後は、まるで森の緑の中にある瀟洒な美術館のような感じになった。

内部空間も含めて、ありきたりの住宅でない事は一目瞭然だ。しかし、特に奇をてらったような、いわゆる使い勝手を無視したデザインは採用していない.住宅に求められるもの(機能や収納)を十分に満たした上でさらに、快適性、デザイン性を追求した結果がここにある。

多くのハウスメーカーが、効率性を重視するあまり、工事方法のみならず、デザインにおいてまで、工業化あるいは大衆化を追求する今の時代において、私の求めるものはアルチザン(職人)またはテクノクラート(工芸家、専門家)の手法であり、決してインダストリアル(工業化、大衆化)ではない。そこには他の誰にも真似の出来ない豊かな創造の世界があるからだ。

何年か後、自然をこよなく愛するクライアントが、じっくりと手をかけた樹木が、まるで建物を包みこむかのように、この青葉の地で青々と輝きを増す風景が目に見えるようで、今から楽しみでならない。

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